求める理想が高すぎるから
なかなか人生が絡まない。
求める希望が多すぎるから
なかなか人生が微笑まない。
求める夢が複雑だから
なかなか人生が定まらない。
求める人が遠すぎるから
なかなか人生がなじまない。
いつからそうなったのか
覚えてないが、気がつけば
青春の抜けない男になっていて
ぼくはこの世をさまよっている。
求める音程が高すぎるから
なかなか人生が歌わない。
求めることを求めているから
なかなか人生が進まない。
とぼとぼと牧師が行く。
すり足の和尚が行く。
鳥歩きの神主が行く。
背の低いラーメン屋が行く。
禿げ上がった寿司屋が行く。
オール電化の電器屋が行く。
ヘビーメタルの男が行く。
股旅演歌の女が行く。
内股のサバ少年が行く。
外股のカニ少女が行く。
急ぎ足の音楽教師が行く。
四股踏み力士が行く。
ウサギ跳びコーチが行く。
ガラガラ兄ちゃんが行く。
ゴロゴロ姉ちゃんが行く。
ツーステップ歌劇団が行く。
一輪車の宇宙人が行く。
二輪車の老斑じじいが行く。
三輪車の法令線ばばあが行く。
伝線した黒脚女が行く。
眉のない茶髪女が行く。
サバ目した金魚が行く。
愛を求めた男が行く。
勘違い愛の女が行く。
鉄菱を踏んだ忍者が行く。
人慣れした河童が行く。
退化した天狗が行く。
お稲荷さんが行く。
化けそこなった狸が行く。
憑依出来ない浮遊霊が行く。
やせ細った野良犬が行く。
肉付きのいい野良猫が行く。
馴れ合いの文官が行く。
くたびれた武官が行く。
がんばれ日本が行く。
街の外れに古ぼけた家がある。
その家は醤油色に染まり
醤油工場のような煙突があり
醤油のにおいで出来ている。
その家を指で押さえると
壁の所々から出来たての
醤油の絞り汁が湯気を吐きながら
出てくるような気がする。
風采の上がらぬおやじさんは
地元の町工場に勤めている。
数キロ離れた工場まで
醤油色の自転車で通っている。
認知症のじいちゃんは
何と思っているのか知らないが
醤油の入った一升瓶を
大事そうに抱えている。
それを見つけたおばちゃんは
ぶつぶつぶつぶつ言いながら
認知症のじいちゃんから
一升瓶を取り上げる。
兄ちゃんは早朝野球をやっている。
顔が小さく日焼けして
体型がどこか一升瓶に似ている。
そのせいなのかあだ名は『醤油』だ。
髪を染めた妹は夕方になると
醤油色のタイツをはいて
白のセダンで訪れるキザな
三白眼男と黄昏の中に消えていく。
飼い犬はいつも醤油味の餌を
食べているせいか醤油色だ。
野良猫は犬の隙を窺っては
その醤油味の餌を取り上げる。
街の外れに古ぼけた家がある。
その家は醤油色に染まり
醤油工場のような煙突があり
醤油のにおいで出来ている。
神さまの風
神さまが風を送ってくれたら
ぼくらはありがたくそれを受け入れる。
神さまがどんな風を送ろうと関係なく
それが神さまの風だとわかっているなら
ぼくらはありがたくそれを受け入れる。
だけど実際にはそれはわからない。
神さまの風であるかもしれないし
神さまの風ではないかもしれないし。
だからぼくらは苦悩するのだ。
その風は神さまのものだと
徹底的に信じ込ませるのが宗教だ。
だけど宗教が神さまを語った時点で
それは神さまの風ではなくなる。
だからぼくらは苦悩するのだ。
かといって知識なく風を受けると
これは神さまの風なのかと迷い
神さまの風ではないのかと迷い
いつもぼくらは苦悩するのだ。
ぼくは人の顔を覚えるのが苦手だ。
初対面の人の顔はまず無理で
五、六度会ったことのある人でも
街ですれ違ったらわからない。
昔からの知り合いの顔すら
満足に覚えていないこともあって
街で知らない人を友人と勘違いし
悪態をつくというという
大失態をやらかしたこともある。
名前はすぐに覚えられるのになぜ
顔を覚えることができないのか。
とはいえ昔の友人や知人は
いくらその風貌が変わっていても
勘が働いてすぐにわかってしまう。
そんな人はそれ以降の人生にも
登場してくることが多いものだ。
案外顔を覚えられる人というは
ぼくの人生において、けっこう
重要な位置にある人なのかもしれない。
気がついたらね、
みんな仲良くお尻を振って
ちょっと変わったダンスを
踊っている。楽しんでいる。
あれはいったい何なのでしょう。
社交でもなく、ラテンでもなく
はたまた日舞などでもない。
とにかくみんなお尻を振って
ちょっと変わったダンスを
踊っている。楽しんでいる。
しかし、よくあそこまで
テンポ正しくお尻が振れるなと
感心しながらぼくは見ている。
運動神経がいいというのか
身が軽いというのか
リズム感があるというのか
小刻みに、かつ大胆に
みんなみんなお尻を振って
ちょっと変わったダンスを
踊っている。楽しんでいる。
寝る前に体操だとか呼吸法だとか
いろいろな条件を付けているので
最近は寝るのが遅くなっている。
その条件さえなくしてしまえば
睡眠事情は劇的に良くなるだろうが
今のぼくはそれが出来ないでいる。
今この体型を維持するためには
どうしてもその条件が必要なのだ。
以前なら確実に睡眠を選んでいた。
じっくり眠れるなら見て呉れなんて
どうでもいいと思っていたからだ。
だけど今のぼくはそれを選ばない。
内臓脂肪の奴がぼくの心に向かって
体型を選びなさいと言ってくるのだ。
他に夏に白やベージュのTシャツを
着たいというのも条件としてある。
ポタポタと風が吹く風が吹く
ついさっきまでハート型の月が
浮かんでいたんじゃなかったか
ポタポタとポタポタと風が吹く
ポタポタと風が吹く風が吹く
そういえば今のこの時間は
すでに連休じゃないんだな
ポタポタとポタポタと風が吹く
ポタポタと風が吹く風が吹く
たかがテレビ番組のことで
目くじら立ててる自分がいた
ポタポタとポタポタと風が吹く
ポタポタと風が吹く風が吹く
奴のこと大嫌いなんだから
会わなくてよかったと思う
ポタポタとポタポタと風が吹く
ポタポタと風が吹く風が吹く
そういうこういう苛立ちが
この人生を作ってきたんだった
ポタポタとポタポタと風が吹く
ポタポタと風が吹く風が吹く
ポタポタは水じゃなかったかと
考えている隙間から闇を伝って
ポタポタとポタポタと風が吹く


by 皆岡紳太
恋